日本語には、似たような意味で使われる言葉がたくさんあります。しかし、それらがまったく同じかというとそうではありません。そんな言葉の違いを見ていきましょう。
① 戦争になるのが恐ろしい。
② 1人で夜道を歩いていたら恐ろしい目にあった。
③ 先生が怖い顔でこちらに走ってくる。
④ 君に褒められると、後が怖い。
上の①②の「恐ろしい」を「怖い」に、③④の「怖い」を「恐ろしい」に入れ替えてみても、特に気になりませんね。これらは、自分にとって危害が加えられそうなので近づきたくない、悪いことが起こりそうで不安だから避けたい、という気持ちを表しています。
では、次の場合はどうでしょうか?
⑤ 山の中で恐ろしいヒグマと出会い、怖かった。
⑥ 連続殺人犯の恐ろしい計画を知って、怖くなった。
⑤を「山の中で怖いヒグマと出会い、恐ろしかった。」、⑥を「連続殺人犯の怖い計画を知って、恐ろしくなった。」と言い換えてみると、何となく言葉がしっくりこないと感じませんか?
そう、これは入れ替えてはいけないのです。なぜなら「恐ろしい」は「怖い」に比べて、より客観的な対象の危険性を表し、「怖い」は主観的な恐怖を表す言葉だからです。
客観的とは絶対的な恐怖であり、主観的とは人や場合によっては恐怖を感じないこともある、ということです。
たとえば、⑤の例のように山の中でヒグマと出会ったとしても、ヒグマとかなり距離が離れていた場合は「怖い」と感じないかもしれません。しかし客観的に見れば、ヒグマは人間にとって危険で「恐ろしい」野生動物だと言えます。
連続殺人犯の計画も、自分とは直接関係がなかったとしても、絶対的な危険性が高いため、客観的に「恐ろしい」ことに変わりはありません。
ちなみに、「恐ろしい」だけに見られる用法を紹介しておきます。
⑦ 彼は、恐ろしいほど頭の回転が速い。
⑧ 今の学生は、恐ろしいほど世の中のことを知らない。
⑦は、驚くほど優れている、⑧は、驚き呆れるほど酷いという意味で、どちらも程度がはなはだしいことを表します。
このように、いい意味にも悪い意味にも使われる用法は「恐ろしい」にあっても、「怖い」にはありません。
普段何気なく使っている日本語ですが、調べてみると細かい意味や用法がたくさんあります。日本語って面白いですね。